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半世紀も前に生まれた社会システム「古紙回収」
Interview

高津社長のサステナ見聞録

#02(後編)

半世紀も前に生まれた社会システム「古紙回収」

「紙トレーを牛乳パックのように資源化したい!」

Interview
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高津

コンビニさんなんかでも食品トレーがプラから紙へ置き換わっています。使用後は再生資源にならず、燃えるゴミに出されてますよね。これ、プラスチックのトレーや牛乳パックと同じように綺麗にすれば、リサイクルできるっていう方向にならないでしょうか。
紙トレーをひっくり返すと紙パックのマークが付いていて、牛乳パックと同じように回収してもらえたら、またトイレットペーパーに変わります、というような。


1リットルの紙パック6枚でトイレットペーパー1個をつくることができる。

センター

そうですね。残念ながらどんな紙でも、基本的に食物残渣のあるものは禁忌品に分類されていて、再生ルートに乗せるのは難しいです。

牛乳パックなど、使用済みの飲料系紙パックは約3割が回収されている

高津

はい、それはこちらのサイトでも分かりやすく説明してくださっているので、承知しているのですが、牛乳パックはもちろん、最近酒パックの回収率も高まってきていると聞きます。
先日エコプロ展の飲料系紙パックの展示コーナーで、使用済み紙パックの回収率が32.3%(2019年統計)になったと伺いました。その仕組みは小学生にまで届くような普及啓発の教育をちゃんと積み重ねてきたからだそうで、素晴らしいなと。紙トレーもそうできないのかなと。

センター

紙パックの回収率は45%を目指していたんですが、実はココ数年、学校給食の牛乳パックの回収率が下がってしまっています。なかなか難しいんですよ。回収した牛乳パックが、高温多湿な状況に置かれるとカビが生えてしまいますよね。食品衛生管理のHACCPが義務化されてから、そのリスク回避のために、回収を諦めた業者が増えてしまいました。すぐ工場に回ってリサイクルするように工夫できないのかなとは思うんですが・・

オリンピック2020の紙コップはリサイクル回収できていた?

高津

課題はやはり食物残渣なんですね。

センター

そうですね。例外もあります。一般に家庭から出される紙コップなど耐水処理がされている紙容器(紙パック以外)は、禁忌品として燃やすゴミに分類するよう案内していますが、例えば、今回の東京オリンピックで使われた紙コップはリサイクルルートに乗っています。C社が独自の技術でその再資源化を手掛けていました。

高津

再資源化する技術はあるんですね。

センター

再資源化の技術もそうですが、発生元も回収ルートも全部まとめてわかっているから、実現したのだと思います。一般家庭からでてくるものは量も種類も予測できないので、まだ多分難しいんじゃないでしょうか。

高津

回収ルートの課題もあると。

センター

とはいえ、100%紙パルプで綺麗に洗われているなら原料として使えてもいいですよね。完全に紙ならば。

高津

うちの紙トレーは紙パルプ100%に近いものが多いです。

食品用紙トレーに必要な耐水撥水機能をどうする?

センター

ただ、食品対応なら耐水撥水性が必要ですよね?

高津

はい、当社の場合はアクリル系塗料、PE(ポリエチレン)、TPX(ポリオレフィン樹脂)PBT(ポリブチレンテレフタレート樹脂)などを塗ったり貼ったりしてコーティングしています。リサイクルに回すためにはこの辺も研究と改善が必要ですね。

センター

最近はプラと紙の複合品が多く出回っていますが、それらは主だった製紙会社でも再生紙の原料にできないそうです。最近は水溶性のコーティング材が出ているので、そういうのを活用することは一つの手かもしれません。

高津

水溶性のコーティング剤で…

センター

1、2度はさっと洗うことができるくらいの撥水性があるけれど、水の中に漬ければ塗料は溶けて紙はべちゃべちゃになる…。そういうのが最近出てきています。

高津

なるほど、調べてみます。仮にその塗料を塗布して紙トレーができたとして、食べた後は綺麗に拭いて洗って乾かしたとしたら、あとはどこに持っていったら資源化できますかね?

センター

どこって言うと・・・(苦笑)その地域にさきほどのC社のような再生紙メーカーさんがいるところといないところがありますからね。

高津

あぁ、そうですよね。

センター

三島のD社の工場もなんでも処理できますね。それから四国のN社が紙コップのリサイクルを引き受けているようです。他にも通常ではリサイクル出来ないようなものを集めて再生資源化に取り組まれていると。

高津

N社は上勝町ともつながりがありましたね。

センター

つまり、それら廃棄物がどこで発生して、どんなものなのか、という情報に責任を持てて、回収・洗浄を保証できればリサイクルが可能になるんですね。スターバックスのようなコーヒーショップなどから出てくる紙コップはリサイクルされても、家庭ごみに含まれた紙コップを資源化するのは難しいですね。

高津

じゃあ、やはり燃やされてしまう紙があるのは、もうそれは当面しょうがないということですね。

センター

一方で「熱回収」という考え方もあります。例えば、品川区には、最新式の設備があって、焼却廃熱を発電に利用する、サーマルリサイクルを行っています。

ほぼ100%パルプの紙資源を活かしたい

高津

当社の紙トレーはほぼ100%パルプで、本当にいい紙なんですよね。燃やしてしまうのは勿体ないので、牛乳パックと一緒に出せないものかと。


高津紙器の紙トレー用紙(成形前)

センター

その話ですが、容リ法(容器リサイクル法)では、紙製容器包装に、紙マークをつけなければなりません。その中で牛乳パックが対象外になっているのは、これまでに、回収ルートがきちんとあって、実績として回収・再生できているからです。ダンボールも同様ですが、この法律ができる前から回収できていたので、対象外として運用できたんですね。ですから他の紙マークのついた容器をそれらと一緒に運用してもらうのは簡単ではないと思います。容環協(全国牛乳容器環境協議会)の方も一概に「うん」とはいえないのじゃないでしょうか。

高津

簡単ではないことはわかります。でも実際、紙マークって、燃えるゴミに出してませんか?

センター

いや、それはちょっと違うんですよ。紙マークは元々容リ法で定められたマークなんです。2000年のちょっと前ぐらいに、その法律ができるっていうことで、製紙会社をはじめ作った側がお金を拠出して、集めて可能な限り資源化しようということになった。実際にそのお金で収集・選別・資源化されています。

収集したものには、紙単体ではなくプラスチックとの複合物とかいろいろありますのでそれらをきちんと選別し、廃棄物関連の業者、古紙問屋、製紙会社などそれぞれに持っていきます。紙は、紙にリサイクルできるもの、できないもの、に分けて、紙にリサイクルできるものが製紙会社にいきますし、できないものについてはRPF(燃料)の原料になったりします。


左上から、棒状RPF、ペレット状RPF、ペーパーフラフ状RPF(『古紙ハンドブック2021』より)

再商品化の3つのルート(『古紙ハンドブック2021』より)

高津

そうですよね。それはすごい仕組みですね。

紙マークは主な原料が紙であることを示すマーク

センター

ただ、全国共通でそういう収集システムが実現しているわけではないので、それぞれの自治体で、紙マークのついた紙製包装容器の分別方法が違うようです。
紙マークはリサイクル可能という意味ではなくて、主な原料が紙であることを示すマークです。本当は雑誌・雑紙と紙製包装容器は、それぞれ分別するほうが良いのですが、結局一緒に集めている自治体もあるし、別に集めて袋に入れてください、と丁寧に回収している自治体もあります。


「資源有効利用促進法」に基づき、紙製容器包装であることを識別するためにうまれた紙マーク

高津

先日伺った徳島県の上勝町は9種類に分別していました。限界集落で税収が少なく、ゴミ回収車もまわらないので、住民が家庭ごみの徹底した資源化に取り組んで、今や世界から注目されるまでになった。そこで広報を担当している若い代表の方に「なんで捨てるものをつくるんですか?」って言われまして。当社も、提案力を高めて資源を無駄にしないものづくりをしなければならないと、切実に思いました。


ゼロ・ウエイストセンターの紙分別のようす(#01の取材時に撮影)

センター

容器を作る側も、使って廃棄物を出す側も、それから集める側も、全部それぞれが、役割を持ってやりなさいよっていうのがリサイクル法なんですね。だから消費者(排出者)の最初の分別っていうのは、重要なんですよ。分別っていうのは、後で分別するほどコストが大きくなります。初期にみんなでやるとトータルコストは安くすみます。リサイクル事業はそうした市民のみなさんに支えられているんです。
高津さんも一社でやろうとすると、メーカーとの繋がりの中で考えていくしかないけれど、業界で集まって取り組んで行くのが良いんじゃないですか?

高津

当社のある四国中央市は、日本一紙を作っている地域なんですが、リサイクル率も日本一になったら格好いいじゃないか、と話しはじめているところです。

センター

たとえばスターバックスとコクヨは、スターバックスで使った紙資源を集めてコクヨのノートをつくり、スタバのロゴを入れて売ったりしています。ある程度みんなでまとまれば、そういう再生の仕方もあるのじゃないでしょうか。

高津

いろいろなアドバイスをありがとうございます。紙製品をより良く循環させるためには、容器生産、回収システム、再資源化、それぞれにしくみと技術進化が必要で、また、状況にあった法律規制が必要なんだということがよくわかりました。

SDGsなんて言われるずっと前、半世紀も前からリサイクル事業を推進していらした古紙再生促進センターですが、最後に今後のビジョンなどありましたらお聞かせください。

センター

今は、製紙会社も私達の事業も順調ですが、流れとしては情報はデジタルに置き換わっていくので特にグラフィック系といわれる新聞用紙、印刷情報用紙類の方は生産・販売が厳しくなっていくものと思われます。一方、板紙系の段ボールをはじめとした包装紙はEC(イーコマース)等の伸長が期待できるので、今後も生産・消費の伸びが期待されます。

高津

なるほど。

センター

今製紙会社は各社ともCNF(セルロースナノファイバー)をやってますから、こういう新素材のリサイクルも考えていくことになるでしょうか。あと例えば王子製紙では使う原料の全てを自社で植林した木だけで賄おうというプロジェクトも動いていますから、こういう原材料もなんとかして最後まで循環利用したいですね。

高津

本日は、いろいろとお話をうかがえて、勉強になりました。
ありがとうございました。

PROFILE

公益財団法人 古紙再生促進センター

http://www.prpc.or.jp別タブへのリンク

古紙の回収・利用の促進を図ることにより、生活環境の美化、紙類の安定的供給の確保、森林資源の愛護に資し、もってわが国経済の健全な発展と豊かな国民生活の維持に貢献することを目的として設立された公益法人。1974年創立。
現在、製紙メーカー44社(84事業所)、古紙直納問屋614社、その他3社の賛助会員で構成されています。

公益財団法人 古紙再生促進センター

今回の取材にあたっては、業務部の中田 広一さん、吉田 和正さん、甲斐 和生さんにご対応いただきました。
大変丁寧に解説いただき、感謝いたします。

高津社長

高津社長のサステナ見聞録

高津社長

私たち高津紙器では、地球環境問題/脱炭素社会への意識の高まりを背景に「プラスチックよりも紙」に追い風が吹いていることを認識していますが、 一方で手掛ける製品のほぼすべてが使い捨て用途であることから、紙だから「環境に良い」製品開発を行っていると言って良いものか、悩んでもいます。
そこで、この企画では自社の製品開発において改めて環境負荷を減らすためにできることは何か?を探し、環境意識の高いお客様に向けた提案力を高めることを目指して、 社長自らが見て聞いて、感じて学んだことを発信してゆきます。社員・スタッフはもちろんのこと、お取り引きのあるお客様にも広く共有させていただき、 一緒に取り組んでいけることを願っています。

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